の苦味
お世辞気のちっともない答えだ。四月のはじめに出る青い蕗のあまり太くない、土から摘立てのを歯にあてると、いいようのない爽《さわ》やかな薫《かお》りと、ほろ苦い味を与える。その二つの香味《こうみ》が、一葉女史の姿であり、心意気であり、魂であり、生活であったような気がする。
文芸評に渡るようにはなるが、作物を通して見た一葉女史にも、ほろ苦い涙の味がある。どの作のどの女《ひと》を見ても、幽艶、温雅、誠実、艶美、貞淑の化身《けしん》であり、所有者でありながら、そのいずれにも何かしら作者の持っていたものを隠している。柔風《やわかぜ》にも得《え》堪《たえ》ない花の一片《ひとひら》のような少女、萩《はぎ》の花の上におく露のような手弱女《たおやめ》に描きだされている女たちさえ、何処にか骨のあるところがある。ことに「にごり江」のお力《りき》、「やみ夜」のお蘭《らん》、「闇桜《やみざくら》」の千代子、「たま襷《だすき》」の糸子、「別れ霜」のお高《たか》、「うつせみ」の雪子、「十三夜」のお関《せき》、「経づくえ」のお園――と数えれば数えるものの、二十四年から二十八年へかけての五年間、二十五編の作中
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