ど思っていたであろうか、そして半井氏は――
昔時《むかし》は知らずやや老いての半井氏は、訪客の談話が彼女の名にうつると、迷惑そうな顔をされるということである。そして一ことも彼女については語らぬということである。関如来氏の談によれば、ある日朝から一葉が半井氏を訪《たず》ねたことがある。彼女の声が、訪れたということを格子戸《こうしど》の外から告げられると、二階に執筆中の半井氏は不在《るす》だと言ってくれと関氏に頼んだ。関氏が階下へおりてゆくと、彼女は上って坐って待っていた。関氏は何時《いつ》も彼女の家を絶えずおとずれる訪客の一人であって、いつも彼女に饗応《きょうおう》をうける側の人であったので、こういう時こそと、自らが主人気取りで、半井氏が留守ならばとしきりに暇《いとま》を告げようとする女史を引止めたうえに、鮨《すし》などまでとって歓待した。そして午《ひる》ごろまで語りあった。階上の半井氏は、時がたつにしたがって、階下に用事があるようになったが、さりとて留守と言わせたのでおりる事は出来ず、人を呼ぶことは出来ず、その上|灰吹《はいふき》をポンとならして煙管《キセル》をはたくのが癖であること
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