れる事幾十日、別紙御一覧の上は八つざきの刑にも処したまへ
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とて熱書を寄せもした。されば、
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にくからぬ人のみ多し、我れはさは誰と定めて恋渡るべき、一人のために死なば、恋しにしといふ名もたつべし、万人のために死ぬればいかならん、知人《しるひと》なしに、怪しうこと物にやいひ下されんぞそれもよしや。
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と思慕の情を寄せてくれる人々に対して誠を語っている。とはいえ、それは思われるに対してである。物思う側の彼女をも、思われた唯《ただ》一人の幸福者をも記《しる》そう。

       四

 さても、さほどまでに多くの人々に懐かしまれた女史の、胸の隠処《おくが》に秘めた恋は、片恋であったであろうか、それともまた、互に口に出さずとも相恋の間柄であったであろうか。日記に見える女史の心は動揺している。すくなくとも八分の弱身はあったように見られる。はじめから女史はその人を恋人として見たのではない。最初は小説の原稿を見てもらうために、先生として逢い、同時に、原稿を金子《きんす》に代えることも頼んだのだ。その人の友達が一葉の友でもあったの
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