舞うのが、禿木の気を悪くするのであろうと、侘《わび》しげにも言っている。そして眉山氏も一葉党の一人になってしまった。禿木は孤蝶子との間に疑いを入れて、ねたましげでもあったであろう。それもそのはずで、
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孤蝶子よりの便りこの月に入りて文三通、長きは巻紙六枚を重ねて二枚切手の大封《おおふう》じなり。
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とある。同じ中に、
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優なるは上田君ぞかし、これもこの頃打しきりてとひ来る。されどこの人は一景色《ひとけしき》ことなり、万《よろず》に学問のにほひある、洒落《しゃらく》のけはひなき人なれども青年の学生なればいとよしかし
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とあるは、柳村、敏《びん》博士のことである。その他に一葉の周囲の男性は、戸川秋骨《とがわしゅうこつ》、島崎藤村、星野|天知《てんち》、関|如来《にょらい》、正直正太夫《しょうじきしょうだゆう》、村上|浪六《なみろく》の諸氏が足近かった。
 正太夫は緑雨《りょくう》の別号をもつ皮肉屋である。浪六はちぬの浦浪六と号して、撥鬢奴《ばちびんやっこ》小説で溜飲《りゅういん》を下げてしかも高名で
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