行水《ゆくみず》の流れに落花しばらくの春とどむる人であろうといい、(親密々々)これは何の言葉であろうと言い、情に走り、情に酔う恋の中に身を投げいれる人々と、何気なくは書いているものの、更《ふ》けて風寒く、空には雲のただずまい、月の明暗する窓によりて、沈黙する禿木氏と、燈火《ともしび》の影によく語る孤蝶子との中にたって、茶菓《さか》を取まかなっていた女史の胸は、あやしくも動いたのであろう。
 此処へ川上|眉山《びざん》氏がまた加わらなければならない。彼女は初めて逢った眉山氏をどう見たろうか、彼女はこう言っている。
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年は廿七とか、丈《たけ》高く、女子の中にもかゝる美しき人はあまた見がたかるべし、物言ひ打笑《うちえ》むとき頬のほどさと赤うなる。男には似合しからねど、すべて優形《やさがた》にのどやかなる人なり、かねて高名なる作家ともおぼえず心安げにおさなびたり。
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とて、孤蝶子の美しさは秋の月、眉山君は春の花、艶《えん》なる姿は京の舞姫のようにて、柳橋《やなぎばし》の歌妓にも譬《たと》えられる孤蝶子とはうらうえだと評した。
 馬場氏の思いなげに振
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