》つちのいとしごにて、少納言は霜ふる野辺にすて子の身の上成るべし、あはれなるは此君やといひしに、人々あざ笑ひぬ。
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と同情している。
とはいえその間に女史一代の天華は開いた。
「名誉もほまれも命ありてこそ、見る目も苦しければ今宵は休み給へ」
と繰返し諫《いさ》める妹のことばもききいれず、一心に創作に精進《しょうじん》し、大音寺前《だいおんじまえ》の荒物屋の店で、あの名作「たけくらべ」の着想を得たのであった。けれどもまた、漸く死の到来が、正面に廻って来たのでもあったが、そうとは知りようもなく、ただ家の事につき、母を楽しませる事についても、一層気掛りの度合《どあい》が増したものと見え、彼女は相場《そうば》をして見ようかとさえ思ったのだ。
私は此処まで書きながら、私も母の望みを満《みた》そうと、そんな考えを起した事が一再ならずあったので、この思いたちが突飛《とっぴ》ではない、全く無理もないことだと肯定する。その相場に関して、「天啓顕真術本部」という、妙な山師のところへ彼女がいったことから、すこしばかり恋愛をさがしてみよう。
荒物店《あらものや》を開いた時のことも
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