で書きならべて、新聞紙であまり書きたてるから、披露しないわけにはゆかない、これだけの品代金を、金で送ってくれと、錦子は生家に四百何十円かをせびった。
来客には派手な社会の者もあり、見られても恥かしくないようにしたい。今は離れの一室に籠《こも》っているが笑われたくないとか、山田家で立《たて》かえるとしても、悠暢《ゆうちょう》に遊ばせている金ではないとか、披露の式は都下の新聞紙にも掲載されるだろうから、その費用の領収証は取り揃えてお目にかけるというような下書きは、美妙が書いて渡した。
華やかな嵐《あらし》を捲起《まきおこ》したこの新夫婦、稲舟美妙の結合は、合作小説「峰の残月」をお土産《みやげ》にして喝采《かっさい》された。
しかしまた、別種の暴風雨《あらし》が、早くも家のなかに孕《はら》みだしていたのだ。
世間的に美妙が蟄伏《ちっぷく》していた時には、心ならずも彼女たちも矛《ほこ》を伏せていた、おかあさんとおばあさんは、美妙の復活を見ると、あの輝かしかった天才息子を、大切な孫を、嫁女《よめじょ》が奪ってしまって、しかも、肩をならべて文学者|面《づら》をするのが気にいらない。
「僕を
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