田沢稲船
長谷川時雨

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)緑青《ろくしょう》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)山田|美妙斎《びみょうさい》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)朝※[#「白/八」、第3水準1−14−51]《あさがお》
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       一

 赤と黄と、緑青《ろくしょう》が、白を溶いた絵の具皿のなかで、流れあって、虹《にじ》のように見えたり、彩雲《あやぐも》のように混じたりするのを、
「あら、これ――」
 絵の具皿を持っていた娘は呼んだ。
「山田|美妙斎《びみょうさい》の『蝴蝶《こちょう》』のようだわ。」
 乙姫《おとひめ》さんの竜《たつ》の都からくる春の潮の、海洋《わたつみ》の霞《かすみ》が娘の目に来た。
 山田美妙斎は、尾崎|紅葉《こうよう》、川上|眉山《びざん》たちと共に、硯友社《けんゆうしゃ》を創立したところの眉毛《まゆげ》美しいといわれた文人で、言文一致でものを書きはじめ『国民の友』へ掲載した「蝴蝶」は、い
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