に越すと、美妙が浅草公園の女を騙《だま》したという風説がやかましくなった。長い間だましていて、二千円からの金を奪ったというような悪評がたったのだった。
 赤い紙の、四頁だった『万朝報』は大変売れる新聞だった。そこの記事にそうしたことが載っていたのを、美妙が反駁《はんばく》した。
 妖艶《ようえん》の巣窟《そうくつ》の浅草公園で、ことに腕前の凄《すご》いといわれたおとめのことは、種にしようと思ったから近づいたのだ。三五《さんご》年の研究で、人事千百がわかったから、久し振りで書こうとおもっていたところだ。そこへ新聞記事になって紹介されたのは、好い前触れ太鼓だから、責めもしない、怒りもしない。丁度よいから早速そのままを昨日《きのう》から書出した。
 というのだった。それを文士モラル問題として、手厳しく、というより致命的にやっつけたのが、『早稲田《わせだ》文学』だった。
「裸蝴蝶」の問題の時には、
 ――これより先、裸美の画|坊間《ぼうかん》の絵草紙屋《えぞうしや》に一ツさがり、遂に沢山さがる。道徳家|慨《なげ》き、美術家|呆《あき》れ、兵士喜んで買い、書生ソッと買う。而《しか》してその由来を
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