いっている。
四
近いうちに、どうしても東京へも一度行くという音信が、孝子のところへ、錦子から届いた。
郷里《くに》の実家に、落附こうとすればするほどあたしはジリジリしてくる。どうして好いのか、笑って見たり、怒って見たり、疳癪《かんしゃく》をおこしてばかりいる。
あたしは、こんな事をしていて好いのかと、自分の胸を掻《か》き※[#「てへん+毟」、第4水準2−78−12]《むし》っている。郷里《いなか》へ帰ったからって、好いものは書けやしない。やッぱりあたしは、美妙《せんせい》のそばにいなければいけないのだ。
あなたは、美妙の評判がよくないと仰しゃるが、それは、あの人を女が好くので妬《ねた》まれるのです。それにこのごろ、紅葉の方が小説を多く書いて、美妙が休みがちなので、そんな噂《うわさ》をするのでしょう。
実は、美妙からも出て来ないかといって下さるから、あたしはどうしても出京します。
――そんなふうな手紙が幾度か繰返されてくるうちに、ある日、錦子は、孝子の前へ笑って立った。
「いけない娘になってしまって――自分でも、我儘だと思うけれど、なんだかジリジリして。」
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