で美しくって、親孝行で、口答えもしないで、他家《よそ》の女の子より優しくしてくれる、めったにない息子を持っただけに錦子が、ムンズリと押黙ってしまうと、うちとけて話かけたくても、だんだん渋ったくなる気がして、そう長くは引き止めなかった。
 それに、美妙がお酒好きで、飲みだすと帰りが遅くなるし女遊びをする様子も知っているだけに、
「何処《どこ》へ寄りましたかねえ。あの人は、種《いろ》んなことを考えているので、お友達のところへ行くと長いから。」
と、錦子に、帰るしお[#「しお」に傍点]を与えた。
 錦子は、青葉の中を、美妙と、そぞろ歩きしようという、当《あて》が外《はず》れただけではない重っくるしさを抱えてぽっくり[#「ぽっくり」に傍点]を引きずって歩いた。
 美妙斎の、特長のある長い顎《あご》も、西欧の詩人や学者のように、耳の辺《あたり》で、房《ふっ》さりと髪を縮らせた魅惑も、逢わない時はことさらに強く思いうかべられて、こういう時には、ああいう眼をする。ああした時には、額よりも顎《あご》の方が光ると、チラチラと眼にうかぶのだが――あの人は好きで好きでならないが、彼家《あすこ》のお嫁さんにと
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