の東紅梅町には、尼古来《ニコライ》教会が落成して間もなかった。あんな高台へ、あんな高い建築を許して勿体《もったい》なくも皇居のお屋根まで見えると、憤慨するものもあったほど巍然《ぎぜん》とした、石の壁と、銅|瓦《がわら》の、塔の屋根は尖《とが》っているが円く、妙致を極めたものだった。
「昔だと、南蛮寺とでも、いったのでしょうね。これがニコライ寺さ。露西亜《ロシア》の国教です。日本へ伝道に来た坊さんの名をとって呼んでるけれど、ほんとは、基督《キリスト》復活聖堂というのですと。」
と、広壮な、寺院の廻りを、並んで歩きながら、美妙斎は、鐘楼の高さを、百二十五尺あるのだと語りながら、
「そういえば、あなたの髪の毛は赤いね。」
と、洗い髪をそのまま、チョンピンにして、白い大幅のリボンを、額の上へ、大きな蝶のように結んで、紫の袴《はかま》を胸高《むなたか》に穿《は》いている錦子を凝《じっ》と見て、
「稲舟なんていうより、君がそうしていると、この建築物によく似合っている。ほんとに好《い》い、ほんとに好い。」
と、すこし離れて、透《すか》して見るようにした。
「おかしな女《ひと》だ。日本|髷《がみ》を結
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