た。
父親が懐《なつか》しかった少年時を思出して、美妙は、あっちの方の川の名など数えたりして見た。
「絵はやめてしまうのですか?」
「ええ。」
「小説を書こうというの?」
「ええ。」
十七でしたね、と訊《き》いてから美妙はおもしろい暗合を思い出していた。
十七という年齢《とし》は、才女に、なにか不思議なつながりを持つのか、中島|湘煙《しょうえん》女史(自由党の箱入娘とよばれた岸田|俊子《としこ》)も、十七歳のとき宮中へ召され、下田《しもだ》歌子女史も、まだ平尾|鉐子《せきこ》といった時分、十七で宮中官女に召され、歌子という名をたまわったのだ。そのほかにと考えながら、
「田辺龍子《たなべたつこ》(三宅《みやけ》龍子・雪嶺《せつれい》氏夫人)さんも十七位だったかな、小説を書きはじめたのは、そうだ、木村|曙《あけぼの》女史も十七からだ。」
と、日本の、明治の、巾幗《きんかく》小説家たちの、創世期時代の人々の名をあげたが、それは、そんな古いことではなかったから、錦子も、おぼろげながら知っていた。
「あたくしに、書けましょうか。」
唐人髷《とうじんまげ》の、艶《つや》やかなのと、花櫛《は
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