なぐし》ばかりを見せているように、うつむいてばかりいる娘は、その時顔をあげて、正面に美妙斎と眼を合わせた。
 生際《はえぎわ》の、クッキリした、白い額が、はずかしさに顔中赤味をさしたので、うつくしく匂った。女らしさがすぎるほど、女らしい女だった。
 肉附きの好い丸顔で――着物は何を着ていたかわからないが、彼女が次の年に「白薔薇《しろばら》」を書いたなかに、赤襟、唐人髷の美しいお嬢さまが、九段《くだん》の坂の上をもの思いつつ歩く姿を、人の目につく黄八丈《きはちじょう》の、一ツ小袖に藤色紋|縮緬《ちりめん》の被布《ひふ》をかさね――とあるのは、尤《もっと》も当時の好みであったから、それを応用しても間違いはなかろう。唐人髷が大好きだったことは友達が知っている。
 美妙斎は二十七になった美丈夫だ。白皙《はくせき》、黒髪、長身で、おとなしやかな坊ちゃん育ちも、彼の覇気《はき》は、かなり自由に伸びて、雑誌『都《みやこ》の花』主幹として、日本橋区本町の金港堂《きんこうどう》書店から十分な月給をとっていたうえに、創作の収入も多かった。

 裄《ゆき》を、いくら伸して見ても、女の着物の仕立は、一尺七寸五
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