[#「このみ」に傍点]もさきむすぶ などかは人の返らざるらむ
こぞもうく ことしもつらき月日かな おもひはいつもはれぬものゆゑ
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 この文のなかの、娑婆での最後とは、彼女が夫入道の道心によつて、在家《ざいけ》の尼となり出家し、法華經を信じ奉ずるために「女人成佛」といふ、むづかしい教理がふくまれてゐるのであらうが、弘安三年五月三日の窪尼《くぼのあま》あての文の頭書《とうしよ》などは、景情そなはつてとてもよい書き出しだ。

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粽《ちまき》五|把《は》、笋《たかんな》十|本《ぽん》、千日《ちひ》(酒)一筒《ひとづつ》、給畢《たびをはんぬ》。いつもの事にて候へども、ながあめふりて夏の日ながし。山はふかく、みちしげければ、ふみわくる人《ひと》も候《さふら》はぬに、ほととぎすにつけての御《おん》ひとこゑ、ありがたし、ありがたし――
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 文永八年五月七日(今から六百六十四年前)に、四條金吾頼基《しでうきんごよりもと》の夫人の出産前に書かれた消息などは、女人のことといへば、表向きは濟ましかへるがならひの僧侶など、恥死《はぢし》ん
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