いほど、宮城の美と壯觀は増す。大内山のみどりの色こそ萬代不變、巨木大樹をますます欝蒼たらしめて頂きたく願つてゐる。
 常磐なす常磐のいろ、移し植ゑたものでなく、國の肇めの當初から根ざしかためて生ひつたへた巨樹大木が、宮城を守つてゐる事はいかにも崇嚴である。かつて上野博物館の後に巨樹が生ひ聳えてゐたころ、博物館の建物そのものが、いかに神々しく、この國の歴史を中に藏してゐることを神聖におもはせたか――建物、それの立派さなどとは異つた不言不語《いはずかたらず》のものを示してゐたが――
 その點で、水利の便もあつたであらうが、江戸開府時代の人たちが丘を殘しておいて、海を埋めて住んだのは當を得てゐる。そしてまた、今度の二千六百年記念の大博覽會が、月嶋のさきの埋立地を會場とすることはもつともよろしい。あの、もはや狹くなつてしまつた上野公園を、何かあるたびに、惜しげもなく巨木を伐り倒すのは――もはや幾本もなくなつてしまつたが――

 震災後の下町は、いつて見れば、新しい開府時代が來たのだ。そこに、この事變に教へられて、最も最新式の都市建築が考へられなければならないから、機械化する美觀と相對して、宮城
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