東京に生れて
長谷川時雨
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)默《だま》つて
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)土地|根生《ねお》ひ
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ます/\
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大東京の魅力に引かれ、すつかり心醉しながら、郷里の風光に思ひのおよぼすときになると、東京をみそくそにけなしつける人がある。どうもそんな時はしかたがないから、默《だま》つて、おこがましいが、土地ツ子の代表なやうに拜聽してゐる。
大震災のあとであつた、ある劇作家が言つた。
「東京つて、起伏をもつてゐる好いところだ。昔は、さぞ好い景色だつたらう。」
言葉は違ふかもしれないが、さういふ意味だつた。私も同感の微笑《ほゝゑみ》を送つた。
もとより褒めたのは、江戸開府以前の武藏野の原のつづきの、廣大な眺めを思つたのであつたらう。それは雄渾でもあれば、また優しく明美でもあつたのだ。富士は何處からも見られ、秩父や、箱根の連山は遠く、欅の巨樹のつらなる丘の裾は、多摩や荒川の清流が貫ぬき、月は、草よりいでて草に入る、はては、ささら波
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