若い者が調戲《からか》つて、
 爺さんなよく毎日殘つてゐるな、もう腐つてゐるだらう。河の中へ歸《けへ》しておけよ、勿體《もつたい》ねえぢや困るぜ、と

 鰯がはいつて來たな、と沖からはいつて來る漁船《ふね》を見て、一人が言つた。
 兄《あに》い、寺は何處だい、御苦勞だな、と棹をいれながら、船頭が挨拶をした。
 寺つて言へばよ、をかしいことがあるのよ、坊主なんて辛《ひど》いことをするぜ、尤も俺達も亂暴にや違ひないが、去年よ小石川の寺院《てら》でよ、初さんところの葬式の來るのが遲れたのでな、前《さき》へ行つてゐた者が、一盃《いつぺい》やり始めたのよ、すると誰かが外で、其處いらには珍《めづ》らしい新らしい鰯《の》を、見つけたといつて買つて來たのよ、買つてくる奴も奴ぢやねえか、一盃機嫌だから、御本堂も何もあるものか、よからうと言ふので燒出したのよ、すると和尚め、よい匂ひですな、なんてやつて來やがつて、旨い漬物を出してよ、よろしければおかはりをなさいましと來たのだ、どうです和尚《おしやう》さん御一緒《ごいつしよ》になつては、と言ふとな、結構ですと言やがるんだ、厭になつちまふぢやねえか、其處ですつ
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