佃のわたし
長谷川時雨

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)暗《やみ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「さんずい+氣」、第4水準2−79−6]
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暗《やみ》の夜更《よふけ》にひとりかへる渡《わた》し船《ぶね》、殘月《ざんげつ》のあしたに渡る夏の朝、雪の日、暴風雨《あらし》の日、風趣《おもむき》はあつてもはなしはない。平日《なみひ》の並のはなしのひとつふたつが、手帳のはしに殘つてゐる。
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 一日のはげしい勞働につかれて、機械が吐くやうな、重つくるしい煙りが、石川島《いしかはじま》の工場の烟突から立昇つてゐる。佃《つくだ》から出た渡船《わたしぶね》には、職工《しよくこう》が多く乘つてゐる。築地の方《はう》から出たのには、佃島《つくだ》へかへる魚賣りが多い。よぼよぼしたお爺さんの蜆賣《しゞみう》りと、十二三の腕白が隣りあつて、笊と笊をならべ、天秤棒を組あはせてゐたが、お爺さんが小僧の、不正な桝を
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