峰百合子女史は、
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ゆきあひし駒込道《こまごめみち》はちかけれどふたゝび君に逢《あ》ふよしのなき
いたづらに窓の日かげをまもりつゝ、帰らぬ友の行方《ゆくえ》をぞおもふ
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片山広子女史は、
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うつくしきものゝすべてをあつめたる其《その》うつそみは隠ろひしはや
さわやかにいと花やかに笑《え》みましゝ、今年の春ぞ別れなりける
書きながすはかなき歌も清《きよ》らなる御目《おんめ》に入るをほこりとぞせし
千人はゆふべに死にて生るとも二たび来ます君ならめやは
豊島《としま》のや千本《ちもと》のいてふ落葉する夕日の森に御供《みとも》するかな
なき世《よ》まで君が心のかゝりけむその幼児をいだきてぞ泣く
掘りかへす新土《あらつち》の香《か》も痛ましう夕日にそむき只泣かれける
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と嘆きうたわれました。誰《たれ》の胸にも楠緒女史は、美しい面影と思出を残してゆかれました。まして大塚博士の悲しみはどれ程でありましたろう。御自分でも癒《なお》るとばかり信じていた死の床の枕上には、紙の白いままのノートが幾冊か重ねられて
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