をもった、若く美しい楠緒女史は春のころからのわずらいに、夏も越え、秋とすごしても元気よく顔の色もうつくしく、語気も快活に癒《いゆ》る日を待ちくらして、死ぬ日の五日《いつか》まえには、
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籠《こも》り居《い》は松の風さへ嬉しきに心づくしの人の音《おと》づれ
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と竹柏園主佐佐木博士のもとへ葉書をよせられたりなされました。
墓表《ぼひょう》を書かれた人は、楠緒さんの御婚礼のときに、結納書をかかれた人と同じ老人だということを聞いて、葬式《ほうむり》の日にお友達方は墓表をながめては嘆かれました。
竹柏園先生は、
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ゆく秋の悲しき風は美しきざえある人をさそひいにける
うつくしきいてふ大樹《おおき》の夕づく日うするゝ野辺《のべ》に君をはふりぬ
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橘糸重女史は、
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重き気《け》の我身にせまる暗き室《へや》に、君がためひくかなしびの曲
胸にそゝぐ涙のひぎき堪《た》へがたし、暗《やみ》にうもれて君しのぶ時
心あひの友といふをもはゞかりしかひなき我は世にのこれども
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