》れた美貌の女であったということだけは知っているので、なるほどそうかと、不思議に満足をした気持ちであった。
その後、近々と、この麗人を見る日が幾度かあった。ことに美しいと見たのは、もう三十幾つ――四十に近いと聞いていたが、ある年の晩春に、一重ざくらが散りみだれる庭に立った、桜鼠《さくらねずみ》色の二枚|重《がさね》を着た夫人ぶりであった。いかな高貴の人柄というもはずかしくない、ねびととのった姿で、その日は、貴紳、学者、令嬢、夫人の多くのあつまりであったが、優という字のつく下に、美と、雅と、婉《えん》と、いずれの文字をあてはめても似つかわしいのはこの人ばかりであると、わたしの眼は吸いつけられていた。金襴《きんらん》の帯が、どんなに似合ったことぞ、黒髪に鼈甲《べっこう》の櫛《くし》と、中差《なかざ》しとの照り映《は》えたのが輝くばかりみずみずしく眺められたことぞ。わたしは、昔物語のなかの、なにがしの御息所《みやすどころ》などいう※[#「藹」の「言」に代えて「月」、第3水準1−91−26]《ろう》たげな女君《めぎみ》に思いくらべていたりした。
出世を嬌《たか》ぶらない、下のものにも気の軽
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