うちに、一枚の写真の人物に引きつけられて、忘れられない美しい女《ひと》を目に残した。今から廿二、三年も前のことで、五、六人の美女にとりまかれて、もっとも美しい女が中央《まんなか》に立って踊っている、そのひとだった。星のような眼がすこし笑っていた。おんなじ連中で、歌がるたをとっているのもあったが、わたしはどうした事か踊りの方にひきつけられていた。そして中央の美人は、濃い髪を銀杏がえしに結って、荒いかすり――その頃は漸《ようや》くはやりだしたばかりだと思った――大島|紬《つむぎ》を着て写っていた。
 しかし、わたしはその人たちが何処《どこ》の連中だか知らなかった。知ったにしたところがその美しい人は、もう紅葉館の美姫としてではなかった頃であろう。その後ほどなくわたしは竹柏園《ちくはくえん》先生のお宅の、お弟子たちの写真箱の中から、中島写真館で見出《みいだ》したとおなじ人の、おなじ写真を見出した。
「この方は、どなたで御座いましょう、先生」
 わたしの声は悦びに額《ふる》えていたに相違なかった。
「博文館の大橋さんの夫人です」
 そう聞くと、その姿こそ見る時がなかったけれど、紅葉館でも勝《すぐ
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