に慢ぜず、ことに女性を侮蔑せざる――そんなふうな人に生まれたし。[#地から2字上げ](「現代」昭和八年三月)
お風呂場美術
美女の湯上りの風趣を、古來から美人畫家は、おのおのの麗筆で、さまざまに眺めて描いてゐる。几帳《きちやう》のかげに、長い髮に香を※[#「火+(麈−鹿)」、第3水準1−87−40]《た》きしめさせてゐるのもある。鬢上《びんあ》げをしたまま煙草をくゆらしてゐるのもある。紺蛇の目の半開き、ぬか袋をくはへてゐるのもあれば、湯上《ゆあが》り浴衣《ゆかた》を抱へてゆくのもある。このごろあたしの書いた小説の※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]繪にも、肩から衣《きぬ》のぬげおちようとしてゐるところ――これは湯上りといへないが――濛々《もう/\》たる湯氣の中に立つた姿もある。
だが、繪に出來ないで、私の心にとまつてゐる風景は、白紙《かみ》を鼈甲の笄《かうがい》に捲いた、あの柳橋《やなぎばし》の初春の――白紙《かみ》を捲いた笄《かうがい》なんて、どうしたつて繪にはならない、そしてそれは柳橋《やなぎばし》にはかぎつてゐないが、かみゆひ
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