。どこかお轉婆ふうで洒《しや》れてゐると思ふ。たしかあれは、濃い紺藍の尾ツポと翼のさきを持つてゐて、頭もその色だつたが、ネクタイを結んだやうに、咽喉のところと、帽子のさきとに、眞紅な眞紅な赤い飾りが、ぽつりとついてゐるのが、唇の紅のやうに鮮かに眼に殘つてゐる。そして上着は底を紺藍に染めた白と紺とのゴマガラ縞だ。
 こんなのはあたしには似合はない。でも、六月の陽のさす、青葉の下で、この鳥をいつも眺める時、コケツトな女性をふと聯想する。文壇では宇野千代さんが着たらば、ピツチリとして、きつと好いだらうと思ふのだつた。[#地から2字上げ](「モダン日本」昭十二・七・一)

     そよかぜ

 あるかぎり展開《みひら》かれた麥畑を地《ぢ》の色にして、岡を越え、河に絶たれては打ちつづく桃の花の眺めは、紅霞《こうか》といふ文字はこれから出て、此野を吹く風が、都の空をも彩どるではなからうかと思ふやうに眺められる。凄いほどな麗人といふよりも美しい野の少女が朱《あけ》の頬を火照《ほて》らしながら、それでも瞳を反らしてしまはずに、うるんだ眼差しで、凝と見入《みい》つてゐるやうな、捨てがたい、胸のはれるや
前へ 次へ
全10ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
長谷川 時雨 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング