の氣がした。
――ほのぼの朝日がさして來る――
といふ大平原の、
――樹木が一本もない。見る限り黄色な草で蔽はれた柔く低い山々の重なり、明るい光線、雲の流れ。眼を据ゑてぢつと山々を見てゐると、この無人の境では空と地とが狎れ合つてのどかに戲れてゐるやうだ。どことなく土地は一種の羞しさうな處女の表情をしてゐる。――とある。
土地と空とをさう感じたことは、私にもあるので、この大いなる果しなき地と空とでは、さうもあらうと思つた。そして、これは八月の盛夏の日記だが、ずつと前に、與謝野晶子女史が、十月ごろバイカル湖附近を通つて、空と、水と、一望薄の原の灰色と報じられたのをもどうしても忘れないでゐるので、今もそれを思ひあはしてゐる。
[#地から2字上げ](「文藝懇話會」昭和十二年三月)
ブルー・パイ
たとへば、あたしが、モダンな、そして、ちよつと氣どつた、ハイヒールで、心もち肩で風を切るふうな、鼻のさきをなめてやると、かすかに細卷きのうすけむりがかすめた薫りが殘つてゐるやうな、三十歳の女だつたら、六月のドレスは、あの青いカササギみたいな禽《とり》の着附《きつ》けを氣どるだらう
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