けれども気性のしっかりしているのも群を抜いていたという。一度言出したことは先生の前でも貫こうとする。そういった気性が女王《クイン》になった芸術座でもかなり人を困らせたのだ。
彼女もまた時代が命令して送りだした一人の女性である。たまたま彼女が泰西《たいせい》の思想劇の女主人公となって舞台の明星《スター》となったときに、丁度我国の思想界には婦人問題が論ぜられ、新しき婦人とよばれる若い女性たちの一団は、雑誌『青鞜《せいとう》』を発行して、しきりに新機運を伝えた。すべて女性中心の渦《うず》は捲《ま》き起り、生々とした力を持って振《ふる》い立った。その時に「人形の家」のノラに異常な成功をした彼女は、驚異の眼をもって眺められた。彼女の名はあがった。
ある夜更《よふ》けに冷たい線路に佇《たた》ずみ、物思いに沈む抱月氏を見かけたというのもそのころの事であったろう。ノラの舞台監督で指導者の抱月氏に、須磨子が熱烈な思慕を捧《ささ》げようとしたのもその頃のことであった。
恋と芸術の権化《ごんげ》――決然と自己を開放した日本婦人の第一人者――いわゆる道徳を超越した尊敬に値いする人――『須磨子の一生』の
前へ
次へ
全44ページ中39ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
長谷川 時雨 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング