ので、一足さきへついたものは須磨子の帰るのを待つべく余儀なくされていると、彼女はすすりなきながら二階へ上っていったが、忽《たちま》ちたまぎる泣声がきこえたので、みんな駈上《かけあが》った。
彼女は死骸《しがい》を抱いたり、撫《な》でさすったり、その廻りをうろうろ廻ったりして慟哭《どうこく》しつづけ、
「なぜ死んだのです、なぜ死んだのです。あれほど死ぬときは一緒だといったのに」
と責《せめ》るように言って、A氏の手を振りまわして、
「どうしよう、どうしよう」
と叫び、狂うばかりであった。どうしても、も一度注射をしてくれといってきかないので、医者は会得《えとく》のゆくように説明のかぎりをつくした。
「あんまりです、あんまりです。どうにかなりませんか? どうかしてください。これではあんまり残酷です」
狂い泣きをつづけた。
三
神戸に住む擁護者《パトロン》のある貴婦人に須磨子がおくった手紙に、
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私は何度手紙を書きかけたか知れませんけれど、あたまが変になっていて、しどろもどろの事ばかりしか書けません。一度お目にかかって有《あり》ったけの涙をみんな出
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