いった態度が歴然としていた。最後までそれで通して行こうとしたのが、何か気が阻《はば》んだのだ。一本気だけに絶望の底は深かった。
 彼女が大層|他人《ひと》当りがよくなったという事を聴いたのもかなり前のことで、抱月氏のお通夜《つや》の晩に、坂本|紅蓮洞《ぐれんどう》の背中を、立ったまま膝《ひざ》で突つくものがある。冬のはじめの、夜中のこととて、紅蓮さんは暖まるものを飲んでいた一杯気嫌で、
「誰だ」
と強くいって振りむいて見ると、須磨子がうつむき加減に見おろしていて、
「どいてくれない?」
 その座にかわっていたいのだという。末席の後の方だったので、やっぱり棺の側にいた方がよかろうというと、
「でも、あの女が私の方ばかりじろじろ見ているのだもの」
と島村未亡人の方を指差したということである。我儘ものだが、どこかにしおらしい、自分から避ける心持ちも持っていたのである。
 でも彼女は、島村氏の令嬢たちが芸術座へ生計費《せいかつひ》を受取りに来たとき優しくは扱わなかった。門前払い同様にしたといわれ、ずっと前の家では格子戸《こうしど》を閉《た》てきり、水をぶっかけようとしたこともあるという。それは
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