ならないと思っていた。陶冶《とうや》されないあの駄々《だだ》っ子《こ》は、あの我儘が近代人だといえばそうとも言われようが、気高い姿体と、ロマンチックな風致をよろこぶ女にも、近代人の特色を持った女がないとは言われない。
ひたぶるに突進んでいって、突きあたる壁のあったのをはじめて発見したのだ。彼女が勢力にまかせて押退けたおりには、奥深くへと自然に開けていった壁が――何の手ごたえもない幕のように見えた壁が、巌壁《がんぺき》のように巍然《ぎぜん》と聳《そび》えたっていて、弾《はじ》き飛ばした。彼女ははじめて目覚めて、鉄のように堅く冷たい重い壁を繊手《せんしゅ》をのべて打叩《うちたた》いて見た。そしてその反響は冷然と響きわたり、勝手にしろと吼《ほ》えた。そのおりには、もう彼女の住む広い胸はなかった。底知れなかった愛人の情をしみじみとさとり知ったおり、そこに偉大な人格を偲《しの》ばなければならなかった。
傲慢な舞台、中ごろが一番激しかった。ことに幕切れなどは、傍若無人《ぼうじゃくぶじん》という難をまぬがれないおりもあって、見ていてさえハラハラしたものである。女王に隷属するのは当り前ではないかと
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