も機嫌がよかった。いま一杯やるところだからと進められたが、お須磨さんが土瓶《どびん》をもっているからなんだと思ったら、土瓶でお燗《かん》をして献酬《けんしゅう》しているところだった」
細《こま》かしいことには無頓着《むとんちゃく》な須磨子の話しをした。極《ご》く最近、地方興行が当って、しかもこの次からは松竹の手で興行をするようになるので、万事そうした方の心配がなくなるというような、芸術座の前途が明るくなった話しのつづきに、
「こんどの地方興行が当ったので、島村さんもいくらか楽になったので、座の会計の都合が悪かったときに、電話を担保にしてお須磨さんから借りた金を、返そうといったらば、彼女がいうのには、あの時分より電話の価《ね》があがっているから、あれだけでは嫌だというので、それでは止めようとそのままになってしまった」
と言った。それこそ私は根もないことだろうと打ち消すと、
「ほんとなのですよ。先生は貧乏――つまり芸術座は貧乏でも、お須磨さんは財産をつくっているのです。かなりあるのです」
といいはった。奮闘克己という文字に当嵌《あてはま》った彼女だ。
二
傲慢《ごうま
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