ん》なほど一直線であった彼女の熱情――あの人の生き力は、前にあるものを押破って、バリバリとやってゆく、冷静な学者の魂に生々《なまなま》しい熱い血潮をそそぎかけ、冷凍《こお》っていた五臓に若々しい血を湧返《わきか》えらせ、絶《たえ》ず傍《かたわ》らから烈しい火を燃しつけた。彼女は掌握《つかみ》しめてしまわなければ安心することの出来ない人であった。そうするには見得《みえ》も嘲笑《ちょうしょう》も意にしなかった。そのためには抱月氏がどんな困難な立場であろうとかまわなかった。彼女の性質は燃えさかる火である、むかっ気である。彼女に逢ったときにうけた顔の印象には、すこしの複雑さも深みも見られなかった。彼女は文芸協会演芸研究所の生徒であった時分に、山川浦路さんに英文の書物のくちゃくちゃになったのを見せて、
「英語を教わって癇癪《かんしゃく》がおこったから、本を投げつけちゃった。出来ないから教えてもらうのに、良人がいくらおしえても解らないなんて言うから」
といったそうだ。抱月氏と同棲《どうせい》してからも激しい争闘がおりおりあったとかいうことである。向いあっているときはきっと何か言いあいになる。頬《ほ
前へ 次へ
全44ページ中17ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
長谷川 時雨 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング