》けにもちいられたということや、卒業間近くなって朝から夜まで通して練習のあったおりなど、みんながそれぞれのお弁当をとるのに、袂《たもと》のなかから煙の出る鯛焼《たいやき》を出してさっさと食べてしまうと、勝手にさきへ一人で稽古《けいこ》をはじめたということなど、そうもあったろうとほほえまれる逸話をいろいろと聞いている。
「須磨子は地方へゆくと、座員のお弁当まで受負うのですとさ。一本十三銭五厘だって。だって、たしかな人がいうのですもの嘘ではない。それでね大奮発《おおふんぱつ》で手製なのですって、お手伝いをさせられるものは大弱りだわ。みんながよく食べるかって? ううん、不味《まず》くっていやだというものが多いから大儲《おおもう》かりなの。だって自弁は御勝手で、つまり芸術座から賄費《まかない》用が出るのだから。手っとりばやく芸術座の儲けの幾分が、女優須磨子の利益の方へ加わるだけの事だから。そしてね、おかずは何だと思うの、毎日毎日油揚げの煮附け」
いまは外国へいった友達がはなした。私たちは「まさか!」といって笑っていたが、ある夜は、芸術倶楽部の居間を訪れての帰りがけに立寄った人が、
「大変先生
前へ
次へ
全44ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
長谷川 時雨 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング