町《よしちょう》の芸妓|米八《よねはち》には千歳米波《ちとせべいは》と名乗らせた時分だったか、もすこし後《あと》で、川上|貞奴《さだやっこ》を援助《たすけ》に出た時だかに、彼女にも守住の本姓に月華という名を与えたのだった。
岩井|粂八《くめはち》といった時分の弟子には、紀久八《きくはち》たちがあるが、月華になってからは、かつらとか、名古屋の源氏節から来た女にも、華紅《かこう》とか、華代子とかいう名をつけた。新しい弟子の静枝も、学海|居士《こじ》が名づけたのだった。
彼女は、好物な甘いもので、苦《にが》いお茶を飲んで、閑《しず》かな日が、気持ちよげだった。
「こんやは一ツ、静《しい》ちゃんに『舌出し三番』でも教えるか。」
といったが、古い日のことを思出したのであろう、お前の踊の師匠だった、おとねさんは、しどいよ、と言った。
おとねさんという名をきくと、静枝は故郷の新潟《にいがた》の花柳界《さかりば》を思いだした。静枝の踊の師匠は、市川の名取りで、九代目団十郎の妹のお成《なる》さんという浅草|聖天町《しょうてんちょう》にいた人の弟子だった。
「そういえば、お師匠さんが新潟へお出《いで
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