市川九女八
長谷川時雨
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)草履《ぞうり》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)も一度|此処《ここ》でも
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ぬっ[#「ぬっ」に傍点]
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一
若い女が、キャッと声を立てて、バタバタと、草履《ぞうり》を蹴《け》とばして、楽屋の入口の間へ駈《か》けこんだが、身を縮めて壁にくっついていると、
「どうしたんだ、見っともねえ。」
部屋のあるじは苦々《にがにが》しげにいった。渋い、透《とお》った声だ。
奈落の暗闇《くらやみ》で、男に抱きつかれたといったら、も一度|此処《ここ》でも、肝《きも》を冷されるほど叱《しか》られるにきまっているから、弟子《でし》娘は乳房《ちぶさ》を抱《かか》えて、息を殺している。
「しようがねえ奴らだな。じてえ、お前たちが、ばかな真似《まね》をされるように、呆《ぼん》やりしてるからだ。」
舞台と平時《ふだん》との区別もなく白く塗りたてて、芸に色気が出ないで、ただの時は、いやに色っぽい、女役者の悪いところだけ真似る
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