の中で惜んでいたのに、このお爺《じい》さんは見世《みせ》ものの中へ出すのか――と思ったからだ。
「なんだ。二人とも、妙な面《つら》あするんだな。」
座頭《ざがしら》へむかって、仮にも、狂言方が、そんな、いけぞんざいな言葉がいえるはずはないのだが、台助は九女八の夫で、しかも、九女八に惚《ほ》れ込んで、大問屋の旦那が、家も子も女房も捨て、小芝居の楽屋へ転《ころ》がり込んだという、前身が贔屓《ひいき》筋ではあるし、今も守住《もりずみ》さんで通っている亭主だったのだ。
「考えておきましょうよ。」
女房の九女八は、女|団洲《だんしゅう》で通る素帳面《きちょうめん》な、楽屋でも家庭《うち》でも、芸一方の、言葉つきは男のようだが、気質のさっぱりした、書や画をよくした、教養のある人柄だった。
馴《な》れてるとはいいながら、九女八の扮装は手早かった。水刷毛《みずばけ》をすると、眉《まゆ》は墨をチョンと打って指で引っぱる。唇《くちびる》の紅は、ちょいとつけて墨をさして、すッと吸っておくばかりだ。
それでもう、生々《いきいき》した娘の顔になっている。子供のときから、御狂言師で叩《たた》き込んでいるの
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