お師匠さんの芸談を聴きに来た、演芸の方の記者《かた》らしいのですよ。談話《はなし》といてくだすった方が好いと思いますから、お逢いになってくださいな。」
と、婉曲《えんきょく》に、この名人の真相を残させたい、弟子の心やりですすめた。
「じゃあ、茶室へでもお通ししといておくんなさい。」
と九女八が言っているうちに、台助は玄関で、来訪者と摺《す》れちがいに、傘をさして、門の外へ出ていった。
「おや、お出かけですか。」
と、台助に声をかけたのは、通りかかった芝居道に通じている、芸人の間を歩き廻る顔の広い男だった。その男は、九女八の家《うち》の門口で、顔馴染《かおなじみ》の台助に逢うと、いま聞いてきたばかりの、煙《けむ》の出るような噂がしたくてたまらなくなったように、
「そういえば、御存じだろうが、あっしゃあ今聞いたばかりのホヤホヤなんだ。話は古いことだが、お宅の師匠は、以前《もと》、堀越《ほりこし》から、なんという名をおもらいなすってた。」
「升之丞ですよ。」
「そうだってねえ、守住さん。それについちゃあ、面白い話があるんだ、何時《いつ》、九女八とおなんなすった。」
「さあ、たしか、新富町《し
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