「今更おそい――か。おくれたりだなあ。」
 同情しながら、わざというのかもしれないが、おひゃらかしたふうにもとれた。が、九女八はそれにはかまわず、
「師匠の芸の神髄を掴《つか》んだ、と思ったのは真似《まね》だけだったのか――師匠は、女団洲なんて、嫌《いや》だったろうなあ。」
「だってお前《めえ》、団十郎《なりたや》だって、高田さんにそういったってじゃねえか、九女八《あれ》が男だと、対手《あいて》にして好い役者だって――だから、お前が、女に生れたってことが、師匠《くだいめ》といっしょに演《や》れなかったということなんで、生れかわらなきゃ、頭から駄目だったのだ。」
「そうじゃありませんよ、静枝やとし子さんの考えを見ても、川上さんや、依田先生たちのことを思い出しても、あたしは、毛剃《けそり》や、弁慶が巧《うま》かったのがいけなかった。」
「高田先生は、そのつもりだったのかも知れないが、宗家《そうけ》はそうじゃなかろうぜ。」
「あたしを女優――女形《おやま》として、相手にはしなかったろうとですか?」
「そうじゃないか、彼女《あれ》は立派な役者《もの》だ。男だったら、俺《おれ》の相手だがと、
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