答えた。
「なにしろ、お医者に言われると、ちゃんと、もう十年にもなりますでしょう、家《うち》にいれば、お午飯《ひる》は、ビフテキ一皿と、葡萄《ぶどう》が六顆《むっつ》ばかり。お母さんが、ちゃんと拵《こし》らえて、食べる娘《ひと》は机の上の時計を見ていて――」
「なんじゃ、あんた、知っとるのか? その女子《ひと》。」
 素麺を滝のように口にしたまま、眼を剥《む》いたのが、黒い顔に、いかにもびっくらしたというふうだった。
「ええ。」
 お腹《なか》から押し出てくる笑《え》まいを、わたしは呆《あき》れている、素麺の上にあるその顔にむけた。
「横浜といえば――そうでなくったって、あんな人は、まあないでしょう、浜子でなければ――」
「そうじゃとも。」
 鼓村師は、一飲込《ひとのみこ》みしてから大きく頷《うなず》いて、
「あんた友達か?」
 今度はわたしが説明する番に廻って、ええと言った。
「横浜の家《うち》へ着くと、お母さんという人が、御馳走《ごちそう》をしたのなんのと、わしでも、どうにもならんかった。可愛いんじゃね、一人娘のようじゃったが。」
「おばさんは、浜子さんのお友達なら、どんな奉仕もす
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