を、救ってくれたのは、鼓村師の好きな素麺《そうめん》だった。古くからいる、年とった女中は、弾奏のあとで、冷たいものを悦ばれるのを知っているので、大きな鉢へ蕗《ふき》の葉を敷いて、透き通るように洗った素麺を盛ったのを、そのまま鼓村師の膝の前へ押しつけた。
「これを、みな食べたら、恥かしいがな。」
そう言いながら、一鉢はすぐになくなってしまった。それと同時に、
「あなた様の分は、もう一鉢ございます。」
と、代りの、前のよりも大きい鉢が運ばれて来た。
大きな人が、舞妓《まいこ》でもするようにはにかんで、口をつまんで、スッ、ヘ、スッ、ヘ、と中へ笑いながら、その鉢も引きよせたが、素麺を、するりと咽喉《のど》にすべり入れると、先刻《さっき》の、正午《おひる》のお弁当の話がまたつづけられることになって、
「その女子《ひと》が断わっていうのには、先生には、誠に済まないのだが、どんなおりにも、正午《おひる》の時計と、キチンとおなじに食べつけているので、そうしないと、お腹《なか》の具合が悪いというて――何処か悪いところがあるのじゃろうが――」
「お腹《なか》に病気がありますの。」
わたしは誠に手軽く
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