いた。
浜子のお母さんほど好《い》い人はない。そして、浜子の養子さんの賢吾《けんご》さんもまた、それに劣らずよい人で、浜子の芸術に尊敬をもっている。
お母さんは奥深い土蔵《くら》前に陣どり、賢吾さんや、女中たちは、外《おもて》へ飛出した。坂の下へいったり、邸の裏へ廻ったり、ずっとさきの角《かど》まで行ったりして、只今《ただいま》は低く、只今のはハッキリと聴えたと、幾返りか報告した。
聴えないというものはない。箏の音とは、はッきりわかりませぬが、響きはきこえましたと、ずっと、さきの方へいったものまでが知らせた。浜子は、ほ、ほ、とそれが例の、こごむようにして笑って、
「あなたへの同情は、素晴らしいものだ。」
それが、では、やりましょうという、返事のかわりなのである。
「まあ、まあ、まあ。そうでございますか、浜さんが、やると申しましたか?」
顔中が、笑《え》まいでくずれそうにいう母|御《ご》へむかって、
「あなた方は、おやっちゃんが来たときから、気持に縛《しば》られてしまっていたのですよ。」
と、もう彼女は、楽劇「浦島」の初版本を出して来て、わたしのと突きあわしている。
改めて私
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