と》が、どこまで達しるかしら。」
充分に、絃《いと》と、柱《じ》との融合を計ったうえ、浜子は研究の態度でいった。やれるかやれないかは、この、音の響きひとつであるという真剣さが溢《あふ》れていた。
私は、縁側の障子を開いた。高みから見る横浜|関内《かんない》の、街々《まちまち》の灯は華《はな》のようにちらめいて、海の方にも碇泊船《ていはくせん》の燈影《ほかげ》が星のようにあった。次の間《ま》の境をあけると、家《うち》の人たちは、二人でむっつり帰って来て、燈もつけない室で、箏をとり出して、弾くのでもなく、何かもずもずやっているので、何ごとかと案じていたように、そっと来て様子を見ていた。
「こんど、菊五郎と、狂言座という研究劇団《もの》を組織して、帝劇で、坪内先生の楽劇『浦島』をやらせて頂けるので、浜子さんに、箏を引受けてもらいたいので――」
と、私は説明して、
「やってもらえるか、もらえないか。この音が、何処《どこ》まで響くか――出来る出来ないより、きこえないようなものが弾いたってしようがないというのです。」
そう言い足すと、浜子は、その通りというように、絃に触れながら、頷《うなず》
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