は黙りあって、いつまでも腰をかけていた。日が暮れかかると、どっちからともなく立って歩きだしたが、口はきかない。

       三

 日はすっかり暮れかけていた。黙ってさきへ立って、浜子が導びいた広間のうちは、一層たそがれの色が濃かった。
 浜子は、壁によせて立ててある「吹上《ふきあ》げ」という銘《な》のある箏《こと》に手をかけていた。「吹上げ」の十三本の絃《いと》の白いのが、ほのかに、滝が懸かったように見えている。
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吹上げの浜の白《しら》ぎく
さしぐしの夕月に――
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 とか、なんとか、わたしが即興詩を与えたことがあったが、その、朝と夕べとの小曲の作曲が、どうも気に入らないといって、どうしても聴かせてくれないので、わたしも、その歌を忘れてしまっている箏だった。
 浜子は言った。
「調子は?」
 それは、やるともやらないとも、返事を口にしないが、たしかに「浦島」の作曲についていっているに違いなかった。
「変えなければいけないでしょう、今までになかったのでもよろしい。そして、音を複雑にするために、高いのと低いのがほしい。以前《もと》からある
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