ああ、そや、そや。なんじゃ、それじゃったわい。」
と、鼓村さんも叫んだ。
 みんなの顔に、ホッとしたくつろぎが浮び、同時に誰も彼もの笑いが爆発した。
「なんのこった。」
と、呟《つぶや》きながら、和三郎は三味線をとって、浜子の方へ、せわしなくむき直った。鼓村さんは、例の首をひっこめて、きまりわるそうに、箏にかかった水の始末を、弟子たちにしてもらった。
 みんなが、急に景気よく、しゃべったり笑ったり、揶揄《やゆ》したりするなかで、浜子だけは、別天地にいる人のように、すこしも動揺されず、直《じき》に最後《しまい》まで完全につくりあげてしまった。
「ほんのこというと、まだよう、まとまっていなかったのじゃ。」
 鼓村さんは、自分だけでなら、どんなふうにも弾けるので、癖になってしまってて、困ると自分でこぼして、気持ちが軽々《かるがる》したように、
「浜子さん、有難う有難う、助かったわい。」
と機嫌よく言った。
 その時、わたしは、浜子は、ひっこみ思案なのだが、大きなものの作曲も出来ると信じた。
 千束町の喜熨斗《きのし》氏の舞台へ、私と、浜子と鼓村さんと翠扇さんとが集った時、猿之助役の大臣《おと
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