、こうした方面にも、立《たて》ものの娘だからということばかりではなしに、女優というのが、なくてはならないと、たとえ泰西《たいせい》の模倣そのままでも、論じられていもしたのだ。
 そんなことを細かく言っていたらば、一篇の、風俗史的な女性発展史になってしまうから、それこそ閑話休題であるが、面白いのは、新富座が越して来て間もない、明治八年ごろの、築地《つきじ》風俗に、こんな日常時|小話《しょうわ》がある。
 当時の新聞からとって見ると、
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雪の肌《はだえ》に滴々《てきてき》たる水は白蓮《びゃくれん》の露をおびたる有《あり》さま。
艶々《つやつや》したる島田髷《しまだまげ》も少しとけかかり、自由自在に行きつもどりつして泳ぐさまは、竜《たつ》の都の乙姫《おとひめ》が、光氏《みつうじ》を慕って河に現じたり。また清姫《きよひめ》が日高川《ひだかがわ》へ飛びこんで、安珍《あんちん》を追ったときはこんなものか、十七や十八で豪気なもの。
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と、合引橋《あいびきばし》の泳ぎ場《ば》で、新富町の寄席《よせ》、内川《うちかわ》亭にいる娘が泳いでいたのを、別品《べっぴ
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