「刀? これは妙だ。」
 鼓村さんはますます興ありげに聴いている。
「ええ、あの人は、幾振りか持っています。そのなかで、思いがけない、今では、国宝級の国俊も、お父さんが東京から買って来て、御褒美に貰ったものだといいます。」
「面白いなあ。当時の横浜は、金がうなるようにあったのだと見える。」
「貿易商が、儲《もう》かってしようがなかったのは、弗相場《ドルそうば》だったといいます。なんにしろ、十六の子に百円の小遣いをもたせて、東京へ遊びによこす――」
「百円? なんで――」
 鼓村さんは信じられない顔つきだ。
「東京へ、とまりに来たことがあるのだそうで、四十日ばかり泊っていたのですが、なにしろ、山谷八百善という派手な家業の家《うち》ではあり、九代目団十郎のおかみさんは、八百善が実家《さと》になっているという親類たちなので、時代は、丁度、明治二十四、五年ごろでしたでしょうから、鹿鳴館《ろくめいかん》時代の直後ですわねえ。でも、浜子さんはそういっていました。父は、あたしが、小遣いをどんなふうにつかうだろうと思っていたのだって。」
「何を買ったかなあ、刀? だが、子供では、他《はた》が買わせ
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