やしなかったろうが――え、なに、本?」
 茶箱に何ばいかの書籍、それを担《かつ》がせて、意気揚々とおちび少女は帰っていったのだ。
「親馬鹿は感心したろうがにえ。」
 鼓村さんは自分も感心したように言った。
「島田に結ってたころ、髭《ひげ》が今に生《は》えてくるでしょ、なんて、からかったけれど――そうそう、こんな話もありましたっけ、佐佐木|信綱《のぶつな》先生の所へいって、あたくしの友達の、こういう人を連れて来ますと言ったとき、その人ならば、思い違いをしたおかしい話があると、なんでも浜子さんが十五、六の時分ではなかったのでしょうか、錚々《そうそう》たる歌人たちを歌会を開いて招いたときの話で、佐佐木先生も招《よ》ばれていったが、どうも、その婦人は、年をとった偉い人なのだろうと出かけてゆくと、立派な家《うち》で、集まっている人たちも、浜子|刀自《とじ》とは、どんな人かとみんなが堅くなっていると、現われたのは、紫の振袖《ふりそで》を着て竪矢《たてや》の字に結んだ、小《ち》っこい小娘だったので、唖然《あぜん》としてしまったが、その態度は落ちつきはらっていたと――」
 あははと、笑いだした鼓村さん
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