しがこっち側からのぞいて、安房上総《あわかずさ》が見えるといったことなどを、とりとめもなく言って、
「お父さんは、信州の小県郡《ちいさがたごおり》の、二百年も連綿としたお庄屋様の家督とりで、廿五歳の青年お庄屋様は横浜へ飛んで来て、野惣《のそう》という生糸問屋《きいとどんや》へはいってしまったんで、横浜が大きくなり、野沢屋が大きくなると、総支配人で店を掴《にぎ》る人になったのですが――その利《き》かない気性と、強いものがあるところへ、お母さんは江戸っ児《こ》ですの。前川という有名な資産家の、太物《ふともの》問屋のお嫁御《よめご》になって、連合《つれあい》に別れたので、気苦労のないところへと再嫁して、浜子さんを生んだ時に、女の子だったらば、琴が上手《じょうず》になるようにと、箏をつるした下で産んだのだときいています。お稽古《けいこ》のことで面白いことがあるのです。」
あたしは聴いているままを、話した。両親の秘蔵ッ子には違いないが、母の教えたがるものと、父親の教えたがるものとは、すこしちがっていることや、お母さんは、浜子が小さすぎる生れだちで、弱いのを気にして、運動にもなるからと、踊の稽古
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