って――お雛《ひな》さまがおむずかりになるわ。」
用はもう済んだのだ、彼女は立って広間へ案内した。
広い客間の日本室を、雛段は半分《なかば》ほども占領している。室の幅一ぱいの雛段の緋毛氈《ひもうせん》の上に、ところせく、雛人形と調度類が飾られてあった。
「御覧あそばせ。まるで養子のように、誰も彼も、これは僕のだこれは私のだと、場所を占領して飾りますの、みんな一|揃《そろ》いずつですもの。いまに、室いっぱいになってしまいますのでしょうよ。あんまり見ごとだって、それをまたいろいろの方が御見物にいらっしゃるので――明日《あした》は大勢さんをお招き申しましたわ。こんやは、あなたのためにだけよ。」
お雛さまの前に食卓がつくられてあって、みんな席へついた。
「あたくしねえ、給仕《きゅうじ》は、年の若い、ちいさい綺麗な男の子がすきです。汚ない、不骨《ぶこつ》な大きな手が、お皿と一緒につきだされると、まずくなる。」
ほんとに、その通りの少年が、おなじ緑の服を着て、白い帽子を頭において三、四人出て来た。
キュラソウの高脚杯《グラス》を唇にあてて、彼女はにこやかに談笑する。
「今晩は、お雛さまも
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