別段わるい心でではなかったが、ふと欣々の子だといったら案外大切にされたので、一度口にした効果がわすれられなかったからだと言う訳なの。」
けれど、厭《いや》な思いもしたし、かなり迷惑もした。人をもって警察の力も借りて、後々《のちのち》そういうことのないようにしてもらいはしたが――
「ほんとの子ならばしかたがないが誤伝て、いやなものねえ。」
白い袖の振りを、指輪の手でしごきながら話していたが、突然《いきなり》白い襦袢《じゅばん》の袖をひっぱりだして、急いで眼にもっていった。その瞬間、たもちかねたような、大つぶの雫《しずく》がこぼれるのを見た。
まあと、深く息をのんで、感動を現わし示したのは合客たちだった。浜子は黙して眼鏡《めがね》をずりあげていた。わたしも気の毒さに面《おも》を伏せているよりほかなかった。
その間に、電話の鈴《ベル》がひびいて取次がれた、彼女は輝く手でまぶたをおさえながら、
「あ、大臣の、尾崎さんの夫人《おくさま》からなら、どうか明日《みょうにち》御覧にお出《いで》下さいまして。」
眼は濡《ぬ》れていて、声は華やかだった。
「折角の夜《よる》を、こんな話をしてしま
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